歌いながら透明アクリルボードに両手で絵を描く「歌のおねえさん」としてデビューした水森亜土さん。ジャズシンガーとして、舞台女優として、そして、さまざまな世代に支持されている人気イラストレーターとして、幅広く活躍中の亜土さんに、一緒に暮らすムクちゃん(甲斐犬ミックス)についてお話を伺いました。ムクちゃんに宛てた、描き下ろしイラスト入りのお手紙も必見です!

---亜土さんのお宅には前から犬や猫がいたんですか?

昔はね、この家ではずーっと秋田犬を飼っていたんですよ。でも秋田犬はちょっと大きすぎて、散歩するときリードを引っ張られて、私が何回も転んでたの。

で、ムクと暮らし始めてから、私のウエストのところとムクの首輪のところをヒモで繋いでローラースケートで散歩してみたら、結構上手くいったんだ(笑)。井の頭公園までザァーっと滑っていけて、すごいよかったんだけど。一度、靴ヒモがほどけたんで、少しかがんでいたら、ムクが猫を見かけて突然バーンと走ったの! だから、私はベーンってコケて。それからその方法は止めたの(笑)。…でもムクはね、秋田犬ほど散歩も引っ張らないし、なかなかやさしいいい子なんですよ。

---(笑)そのムクちゃんとの出会いについてお話いただけますか?

八ヶ岳の麓に行く途中にドイツ料理屋があるの。そこのオーナーがとてもやさしい人でね。八ヶ岳の別荘あたりには、犬を捨てていく人がいっぱいいるんですよ。それも、捨てる人も少しは仏心が働くのか分からないけど、「レストランだったら食生活に困らないだろうなぁ」と、レストランのオーナーがやさしいのを知っていて、お店の前に捨てていくんだって。

そのレストランにはフランクフルトソーセージと、ジャガイモとベーコンをマッシュしたすごくおいしいのがあって、八ヶ岳に行くときはそれを食べに行くわけ。それは家の秋田犬が死んでからの話ね。そしたらそのオーナーが、「今、犬が20匹いるんだけど、子どもが6匹生まれて、もらい手に困っている」って言うから、じゃあってことで、そのうちの4匹をもらって。で、私ももらい手を探したんだけど、最後に残ったのが、このムクだったの。

---その頃はどんな大きさだったんですか?

もう片手に乗っかるぐらい! 片手に乗っけて帰ってきたんですよ。あとキュンキュン鳴くのを懐の中に入れてね。段々暖かくなってきたって思ったら、チューっとオシッコされちゃって(笑)。

---かわいいですねぇ。


その頃は本当に小さかったんですけどね、今はこんなに大きくなって。白髪が多くなってきましたけど、その当時は背中が真っ黒でね、お腹からお尻がずっと茶色だったんですよ。だからよく「お宅、2匹いるんですね」って。

---前から見るのと後ろから見るのと、全然違う犬に見えるんですね(笑)。

母親に甲斐犬の血が入ってるんで、一応この子も甲斐犬っぽいんですけど。甲斐犬って本当はすごいジャンプ力があって、2メートルぐらい飛ぶっていうのよね。でも「飛べ」と言ってもムクは飛びません。だからもし2メートル飛んだときは、新聞記者の人を集めて記者会見したいですね(笑)。


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Dear ムンク!
夜のとばりが落ちる頃。露草香る林の中を二人で何年も走ってるね。一緒に…。モクモクと。
君が何かしゃべれたらとても感想を聞きたいのに…。
「空気が良いワ」とか「足がひえるから靴はかせて…」とか
「熊が出たら知らないゾ」とか
「猿のフンがたまらなく好き」とか---ね。

「もう、つき合ってらんないワ」
でも良いんだぜ!ベイビー
亜土

---ムクちゃんに宛てたお手紙を2通も書いていただきまして、ありがとうございます。
お手紙を拝見すると、ムクちゃんは「ムンク」とか「ムク」とか、いろいろな呼び方があるんですね。

最初は(ムンクの叫びのポーズをしながら)このムンクだったんですけど、見た目がムクムクだったんで、いつのまにかムクと呼ぶようになっていました。

---最初にムンクと名付けたのは、亜土さんだったんですか?

そうなんです。今まで家にいた犬や猫たちは、三太に弥太にファン太にイヴ・モン太だったんですね。でももう最後に「太」を付けるのは止めようってことになって、ムンクにしたんです。

---お手紙には熊や猿が出てきますが、
これはどういうエピソードなんですか?

毎週末ムクと一緒に山へ行くんですよ。長野県のアトリエへ絵を描きに。もう通い続けて十数年にもなりますが、そのときの話ですね。山で熊に遭ったときにね、ムクが尻尾を振ってて困っちゃったことがあって(笑)。あとね、山のあちこちにある猿の糞に体をスリスリして、耳の後ろにくっ付けて、すごい喜ぶんですよ。それが臭いのなんのって!

---(笑)絵を描いている間、ムクちゃんはどうしているんですか?

アトリエの周りをウロウロしています。外に犬小屋があるんですが、夜は2メートルぐらい雪が積もるのよね。だから気の毒なんで、冬の間だけはアトリエの中に入れていたんだけど。11歳過ぎてからは、なぜかいつの間にか室内犬になっちゃったの。本当はこうやって(今みたいに)家の中にいるはずじゃなかったんですよ。前は庭の犬小屋で寝ていたから。

---ムクちゃんって今いくつなんですか?

12歳半か…そろそろ13歳ぐらいじゃないかな? 若作りなのよね。

---今でも毎日お散歩しているんですか?

毎日ね。まず近所の中学生の女の子と朝7時半ごろ行って、それからもうちょっと経つと、16時半ごろに美女が来てね、その人と夕方に散歩。たまに夜中、ちょっと太ったかなってとき、私のウエストとムクの首輪をヒモでつないで、井の頭公園あたりまで走っています。それを見た近所の人は「犬に散歩させてもらっていいですね」って(笑)。

---病気になったことはないんですか?

私と一緒に散歩しているときに、なんか美味しそうなものが落っこちてたんでね、ムクがガブって食べたわけ。で、「ダメ!」って言って、私が食べたんですよ。で、次の日ふたりともね、倒れたの。なんか…甘くておいしかったんですよ。

---え〜(笑)!?

私はおなか痛くてお医者さん行って。ムクも熱が出たらしくて、ふたりで獣医と内科医に。ちょうど病院が隣り合わせてたからね、お互いに別のドア開けて(笑)。で、一緒に帰ってきたんですね。それ以来ね、「落ちてるものを拾って食べないように」と自分にもムクにもよく言い聞かせているんです。

---ご無事でなによりでした(笑)。
おふたり(?)の危機一髪と言えば、先ほど少しお話が出た「熊に遭遇した話」も詳しく伺いたいのですが…

たらの芽を採るために、道なき山をどんどん登っていったときのことね。たらの芽ってね、枝に痛いトゲが生えているの。その間を血だらけになりながら行ったら、ムクが突然に「ウ〜!」と唸りだしたの。尻尾はブンブン振っているんだけどね。それで何だろうなと思って、ムクが見ている方を見たら、3メートルぐらい先に熊がいたの!

---大きな熊だったんですか?

大きいですよ! それで、目と目が合っちゃったの。普通は「目と目が合ったら死んだフリ!」とか言うけど、とにかく逃げなくちゃと思って。で、逃げるとき、山では熊と出遭わないように、ラジオ流したり、鈴付けたり、とにかく音を出した方がいいっていうから「なんか歌って逃げよう!」と思って、「ムク、逃げるぞ!」って声かけて走り出したんだけど、私ジャズ歌手なのに、ジャズなんか1曲も出てこない。「ぽっぽっぽーはとぽっぽー!!!」とか叫びながら逃げたの(笑)。

---そのときは笑えないでしょうけど、おかしい話ですね(笑)。

そのとき助かったんですよね、ムクのおかげで。あのとき私ひとりだったら、熊に襲われてたかもしれない。

---普段の生活の中で、ムクちゃんがいてよかったなと思えることはありますか?

この人(ムク)がいるおかげで気持ちが安らぐっていうかね。ムクがね、私のことを呆れて「ふぁ〜」っと深いため息をつくことがあるのよね(笑)。(ムクちゃんに語りかけながら)ムク、あんたの話してんのよ。…ムクがため息つくときって、なんかビーフジャーキーのにおいがするのよね(笑)。

疲れたときなんか(ムクちゃんに寄りかかりながら)こうやってムクの背中に寝たりするとね、あったかいんですよ。そうやって一緒にいるときホっとします。

---ムクちゃんは本当におとなしいですよね。

でも車で渋滞して、この人(ムク)と6〜7時間ずーっと一緒にいると、もうすごいおもしろいのよね。私は車の中でガンガンにブルースをかけて、じっと渋滞を我慢してるのね。で、ムクも結構ね、私と一緒でブルースが好きみたいなの。それまで眠っていても、ブルースがかかるとなんかこう(体を揺らしながら)、ノッてくるの(笑)。

---(笑)素敵ですね。

パチパチっと指を鳴らすんじゃないか、って様子でね(笑)。

---今でもご自分で運転されるんですか?

そうなの。なんかね、運転が好きなんですよ。

---亜土さんだったら2つハンドルがあっても、右手と左手で器用に運転できそうですよね(笑)。

(両手をくるくる動かしながら)こうやって(笑)?

---今でも両手で絵を描かれているんですか?

やってますよ。ショータイムとかでやることもありますし、学校行ったりして子どもたちの前で『ひみつのアッコちゃん』の曲(*アニメ版のエンディングテーマ「すきすきソング」)とか「アレアレアラレちゃん」(*アニメ『Dr.スランプ アラレちゃん』のエンディングテーマ)とか、「南の島のハメハメハ大王」とか歌いながら描いて。

---なつかしい!! 私も亜土さんの曲を聴いて育ちました。

学校にはムクと一緒に行くんですよ。

---そうなんですか!

そうなの。校庭の木のところに繋いでね。そうすると子どもたちがみんな教室から出て来るんです。抱きしめられたり、ヨダレ付けられたりして(笑)。そういうときもムクはちゃんと我慢してる。偉いですよ。

---やっぱり亜土さんに一番懐いているのでしょうか?

そうかもしれませんね。ただね、この人(ムク)やさしいんですよ。私のお姉さんもやたらと可愛がっているんで、お姉さんに顔立てて、私にも顔立てて。お散歩してくれる人たちにも顔立てて(笑)。

---本当にやさしいワンちゃんなんですね。亜土さんにとってムクちゃんをひと言で表すと何でしょう?

用心棒かな? “生きがい”とか、そういう人もいるでしょうけど、私はちょっと違うんだよね。ムクは毛がいっぱいあって暖かいから、最近流行りの犬用の服を着せたりもしないし。…でも一緒に散歩してるときは、足袋でも履かせてあげたいよね。向こうは素足だしさ。秋の山を歩いていると栗のイガイガがいっぱい落っこちてるのよ。こっちは靴履いてるからいいけど、犬は走っていても痛そうだから気の毒で。なんか履かせてあげたいな、なんてね(笑)。

(突然、取材スタッフのひとりに向かって)ねぇ、今、あなたの飼っているワンちゃんを当ててみましょうか?

---え! ぜひお願いします!

室内犬で耳が垂れてて、足が短いでしょ?

---(かなり当たっていて驚きつつ)室内犬で耳が垂れてて、足が長いです。小型犬なんですけど(笑)。

あら、そうなんだ残念! じゃあ分からないな。なんて犬?

---トイプードルです。

そうなんだ。かわいいよねぇ! 飼い主とペットって似てくるでしょ? だから、私、秋田犬と一緒だったころは、ディレクターとかにすぐ吠え付いたりしていましたよ(笑)。今はやさしくおっとりしているんですけどね、ムクみたいに。

水森亜土さんが綴ったムクちゃんに宛てたお手紙


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ワンワン!水森亜土

 二十年くらい前迄飼っていた三太と弥太は、大きな秋田犬でした。私を背中に乗っけて散歩してくれたくらいです。この二匹の次も秋田犬で、この子には白い毛並通り、雲太、クモ太ではありません、雲呑(ワンタン)のワンで雲太(ワンタ)と命名しました。と言う訳で、私の家では代々犬に関しては純血主義を守り、名前も○△太(ナニナニタ)と、必ず太をつけると言う伝統が時代を越えて守られていたのですが、この両方をいっぺんに引っくり返したのが、今、私の膝を枕にクークー寝ている雑種中の雑種、ネオ強力スーパー駄犬のムクであります。
  ムクは、毛並からして形容不可能に近い色模様でありまして、強いて言えば「田んぼの中をころげ廻った後で焚火の灰の中に落っこちた色」なのであります。そして、一応はワンワンと言う吠え声で、犬としての存在をアピールするあたりは、哀愁のようなものもただよい、向こう三軒両隣のマダム&マドマーゼルの母性本能をくすぐる時もあるのですが、ムク最大の美点は、心やさしい素直さと、お手とお坐り以外は何も出来ない、超自然児のワン公だと言う事です。「おーいムク、あんたはサイコオだぜ、ワンワン!」
●プロフィール● 水森亜土
ジャズシンガー、イラストレーター。東京都日本橋出身。高校卒業後、ハワイ遊学中にジャズとハワイアンの洗礼を受ける。帰国後、本格的にジャズを学ぶ。新人歌手として日劇ミュージックホールに出演中、未来劇場主宰者、里吉しげみの目に止まり、歌ではなくイラストを依頼された。これが縁で、その後未来劇場に入団。以来、個性的なおしゃべりと演技で異彩を放つ女優として活躍。現在もジャズライブ、油絵、イラスト、舞台女優、お絵描きライブなど、めまぐるしく活動中。
★公式HP:劇団未来劇場 亜土工房(http://www.miraigekijo.com)
●インフォメーション●
劇団未来劇場 創立50周年
第90回記念公演「女房の骨つき肋肉ローズマリー風味」

2008年4月11日(金)〜20日(日)
作・演出/里吉しげみ 音楽/小林亜星
出演/水森亜土 江戸家まねき猫 大場泰正(文学座) 表 純子 水咲まゆ花 七瀬 薫 山田雅彦
     織田龍光 他
於/銀座博品館劇場

→詳しい情報は公式HP「劇団未来劇場 亜土工房」をご覧ください。

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